発達障害の方は、今後やるべきことの「する・しない」の判断を行うとき、定型発達者の方に比べ時間がややかかりがちな傾向にあります。
いつまでたっても行動に移せず時間ばかりが過ぎてしまうため、「すぐに決められる人がうらやましい…」と自己嫌悪に陥る方も珍しくありません。
【本記事はこのような悩みを持つ方におすすめ】
・優柔不断で決断するまでに時間がかかる
・決めた行動に自信が持てずに後悔してしまう
今回は、仕事や人間関係など多くのシーンで必要になる「意思決定」の具体的なやり方について解説しますので、お困りの方は参考にしてみてください。
目次
意思決定の際に必要になる「思考の仕組み」とは?
人が行動するとき、脳は以下2つの異なる指示系統で指示を出しています。
【指示系統の名称】
①トップダウン→意識的に考えて行うもの
②ボトムアップ→本能的に行うもの
トップダウン
トップダウンは別名「意思の力(ウィルパワー)」とも呼ばれており、主に何か行動するときに出る指示系統とされています。
トップダウンによる行動の例は、主に以下のとおりです。
【トップダウンによって取る行動の例】
・ダイエットするために運動をする
・志望校合格のために毎日3時間勉強する
・仕事の前に30分間読書をする
上記は基本的にウィルパワーが必要なので、習慣化されていない限りかなりのエネルギーが必要になります。
ボトムアップ
ボトムアップは、「仕事の前に散歩する」「風呂上がりにビールを飲む」など、自分が無意識に取ってしまう行動をするときに出される指示系統です。
ボトムアップによって取る行動の例は以下のとおりです。
【ボトムアップによる行動の例】
・間食(気づいたら手元にあったチョコレートを食べていたなど)
・寄り道(仕事帰りにラーメン屋に入るなど)
トップダウンとボトムアップ、どちらがよりストレスなく行動できるかといえば、特に大きな負荷がかからない「ボトムアップ」の方といえるでしょう。
なお、多くのプロスポーツ選手はボトムアップ型の指示を有効に活用しているといわれています。
「トップダウン」では活躍できない?
たとえば、プロ野球選手のバッターの場合、以下のような動きをしてボールを打ちます。
【バッティングの基本動作】
①バットを構える
②ピッチャーの投球動作に併せてテイクバックし、足を上げる
③腰を先に回し、ボールをバットに当てるようにスイングする
④ボールが当たったら手首を捻り、バットを体に巻き付けながらフォロースルーをする
プロ野球選手なら当たり前のようにやっていることでも、初心者の方にとってはかなりの重労働です。
何度も繰り返しバットを振ることによって、ようやく身体がスムーズに動くようになります。
これと一緒で、自分がやりたい行動を「ボトムアップによる行動」に変えられば、最初は難しかったこともスムーズにできるようになるというわけです。
優柔不断になってしまう主な要因
以下の2つはスムーズな意思決定をはばむ要因になるので、可能な限り避けるようにしてください。
【スムーズな意思決定をはばむ要因】
・マルチタスク
・過度な疲労
マルチタスク
マルチタスクとは、同時に複数の作業を行うことを指す言葉で、電話をしながらパソコンで作業するなど、ADHDの方が苦手なことのひとつとして挙げられます。
脳の前頭前野に大きな負荷をかけてしまうため、うまく処理しきれず作業効率が落ちてしまうことも珍しくありません。
僕も「マルチタスク業務」が非常に苦手で、周りの人たちに迷惑をかけてしまうことが多くあります。
【僕にとっての苦手作業】
・電話対応
・プレゼン中のスライド切り替え作業
・会話しながらの食事
「スライド切り替え」作業には、「説明を聞きながら手元のキーボード&マウスを操作する」という能力が求められます。
僕にとってはかなりの重労働で、「変なタイミングで切り替えてしまう」「切り替えるタイミングが遅くなってしまう」などのミスをすることが少なくありません。
また、「電話対応」「会話しながらの食事」の2つもマルチタスクにあたり、いつも「ボロが出たらどうしよう…」とビクビクしながら懸命にしのいでいます。
過度な疲労
当然のことかもしれませんが、身体や心が疲れている場合、意思決定に時間がかかるようになります。
さらに、判断を誤る可能性も高まるので、疲れているときに大事な決断をするのは原則避けるべきといえます。
【疲れているときに避けるべき意思決定の例】
・深夜までかかった仕事の後に、海外旅行の段取りを決める
・夜泣きがひどい息子をあやした後に、ドラム式洗濯機のような非常に高価な家電を購入するかとうか検討する
きちんと身体を休めた後に決めるのが「上手な意思決定」のコツといえます。
優柔不断な発達障害者におすすめの「決め方」
「来月友達と一緒に食事に行くのだけれど、何となく面倒に感じるな…」など、「してもいいけどどこか気乗りしない」という状況は、どことなく歯がゆいものです。
しかし、命が関わるような大きな決断でもない限り、どちらを選んでも今後の日常生活に大きな変わりはありません。
最後に、決断するときに悩んだときに使える「決め方」について解説していきます。
【意思決定で大事な4ステップ】
・行動することで生じるリスクを考える
・それぞれのリスクを比較して検討する
・プロスペクト理論も考慮したうえで最終的な判断をする
・決めた後は最大限楽しむ
行動することで生じるリスクを考える
たとえば、職場の人や友達から飲みに行こうと誘われたとき、「行く・行かない」を決めることになります。
仲の良い人なら「OK」、嫌いな人なら「NO」などと、さほど悩まずに決められるでしょう。
悩んでしまうのは、好きな人から誘いを受けたものの、その日はたまたま「今まで読みたかった本を読もう」などと事前に決めていた場合です。
このとき、自分の軸をはっきりさせていないと、今後の後悔につながってしまいます。
【ありがちな「後悔」の例】
・飲み会自体は楽しかったけど、やっぱり本を読めばよかったかも…
・断って本を読めたのは良いものの、やっぱり行けばよかったかも…
上記のような悩みを抱えてしまうことになるので、「行くことで発生するリスク・行かなかったことで発生するリスク」を考えることが重要といえるのです。
それぞれのリスクを比較して検討する
たとえば「飲み会に行く」と決めたとき、懸念されることは以下の3つです。
【飲み会に行くことで生じるデメリット】
・金銭的な負担がかかる
・自分の時間が少なくなる
一方、「飲み会に行かない」と決めた場合、以下のようなデメリットが発生するかもしれません。
【飲み会に行かないことで生じるデメリット】
・ずっと楽しみにしていた本が読めなくなること
・家族との時間が少なくなること
・誘った人が嫌な上司だった場合、大きなストレスを抱えることになること
個人差もあるかと思いますが、それぞれのリスクを比べながら決めていくことで、後悔のないような判断ができるようになるはずです。
プロスペクト理論も考慮したうえで最終的な判断をする
人は、何かを得る満足感よりも失うリスクを恐れます。
これはダニエル・カーネマンという心理学者が説いたプロスペクト理論からきているものとされています。
プロスペクト理論とは、不確実な状況下で意思決定を行う際に、事実と異なる認識の歪みが作用するという意思決定モデルを表した理論で、人の習性のひとつである損失回避性を現しているともいわれています。
【損失回避を表すときによく使われる例】
・一万円を得る喜び<一万円を失うことで発生するショックの度合い
・恋人ができたうれしさ<別れてしまうことの恐怖
上記のように、財布を落としたり恋人と別れてしまったりすると、これまで得てきたさまざまなものを失ってしまうことになり、その恐怖感は計り知れません。
決めた後は最大限楽しむ
先ほど挙げた「飲み会に行くか・行かないか」で悩んだケースで、最終的に「誘いを断って本を読む」と決めた場合、「飲み会<読書」となるよう、読書の時間に集中するようにしましょう。
読書中、「やっぱり飲み会に行けばよかったかな…?」と悩んでしまうと、誘いを断った罪悪感や、自分だけ仲間外れになったかのような恐怖感を覚えやすくなるためです。
一方、読んだ本が面白く、新しい知識を増やすことができれば「読書して正解だった」と思えるようになります。
罪悪感や後悔の念を減らせるよう、自分が選んだアクティビティを最大限楽しむことが重要といえるでしょう。
発達障害でも優柔不断でも十分生きていける
今回は、なかなか決断できずに困っている方に向けて、仕事や人間関係など多くのシーンで必要になる意思決定の具体的なやり方について解説しました。
・やりたいことはボトムアップの考え方で自動化する
・取った行動で発生するリスクをそれぞれ比べてから決める
・失うことの怖さをあらためて確認しておく
「結婚をする」「新しいビジネスを始める」「転職をする」など、今後の人生において、これから何か決断しなければいけないようなシーンは必ず一度は訪れます。
このようなときが訪れたときは、「行動することで失うことのリスク」について一度自分なりに整理し、納得いくまで考えたうえで決断するようにしてくださいね。
上記の書籍も参考になるので、気になる方はぜひ一度読んでみてください。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
それではまた!